あの子の手弁当

あの子の手弁当というバンドです

タバコを4本

小さな頃から両親はヘビースモーカーで、

1日一箱は当たり前に消費するのを間近で見ていた。


くせーとしか思わず、私は妹と絶対に大人になっても吸わないと言い合っていた。


大学生になって、軽音サークルの新歓合宿に行ったら宴会場が煙でもくもくになっていた。はじめて、自分と年の近い人たちがタバコを吸っているのを見て、かっこいいなあ、この人たちはタバコを吸うんだよ、と感動した。


はじめて、好きな先輩とデートをした。先輩は、散歩の途中に何度もタバコを吸って、私はその横をふらふら歩いたりした。全然吸いたいと思わなかったけど、その匂いを吸うのが本当に好きだった。先輩が好きだった音楽とか全然覚えてないし、でもタバコを吸う姿は覚えている。




はじめて、ちゃんとした彼氏ができて、その人はタバコを吸わない人だったけれど、私と別れた後にタバコを吸い始めた。

その次の好きな人も、好きになってくれた人も、みんなタバコを吸っている。


タバコを吸っている人に、憧れているの?




タバコになっちゃいたいな、

そのまま吸って吸って、私がいなくなった後も、匂いとか、体の中に害とか、残したいな、

今が続かなくなったとしても、そこに残っていられるような、あこがれのような、タバコのような、人になれたらな、





「花筐」という映画を観たら、主人公が、タバコを吸う同級生のこと、だってタバコを吸うんだよ、といいながら自慢していて、

あこがれて、タバコを吸うんだけど、その頃には誰もタバコなんて吸うのを辞めていた。



今日、タバコを4本吸った。

はじめて、きちんと吸った。

でも、なんだよ、あこがれってこんなもんかよ、そんなくらいに、なにもなかった、タバコなんて



こんな風にタバコタバコって書くのももう恥ずかしくなったよ、別にもう一つも憧れてなんてないし、全然タバコ吸ってる人かっこよくない


でもあの時にタバコを吸っていた、好きな人の、好きでいてくれた人の、父の、母の、祖母の、その姿はどうしてこびりつくのか


あこがれは、触れた途端に無くなってしまうのに、どうしても過去の記憶として、今のわたしにずっと刻まれてしまう



瞬発的に言葉を発する、その言葉たちを小っ恥ずかしいと振り返る時が来ることを予知しながらも、わたしは繰り返す